障害認定日請求と事後重症請求の違い|最大5年さかのぼるための条件

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同じ病気・同じ症状でも、受け取れる額が数百万円変わる話

障害年金の請求方法には2種類ある。障害認定日請求事後重症請求だ。どちらで請求するかで、初回に受け取れる額が数百万円単位で変わることがある。にもかかわらず、この違いを知らないまま窓口に行き、流れで事後重症になっている人が少なくない。

この記事では、2つの請求の使い分けと、「認定日の診断書が取れない」ときの現実解を解説する。

なぜ「知らないまま事後重症」が起きるのか

当事者の発信を追うとわかるのは、申請にたどり着くまでに年単位の時間がかかるという現実だ。発病して、我慢して、退職して、生活が立ち行かなくなって、ようやく制度を知る。精神障害の当事者として発信を続ける人物が「障害年金の闇」と呼んで大きな反響を得たポストも、まさに「制度を知らないまま時間が過ぎた人」がぶつかる理不尽(退職後の初診で基礎年金のみ)についてのものだった。

認定日請求の遡及も同じ構造にある。知らずに過ぎた年月の分も、証明さえできれば取り戻せるのが認定日請求だ。初診日から何年も経ってから申請する人こそ、「事後重症でいいや」と流される前に、認定日時点の状態を証明できないか一度立ち止まる価値がある。

認定日請求の条件 — 鍵は「認定日前後3か月の診断書」

認定日請求に必要なのは、障害認定日以後3か月以内の状態を書いた診断書だ。数年前の話なら、当時のカルテからさかのぼって書いてもらうことになる。

ここで効いてくるのが、実務者の発信が指摘する現実だ。カルテの法定保存は5年。古い記録は破棄され、初診日や当時の状態の特定が困難になるケースが実際にある。認定日の頃に通っていた病院にカルテが残っているかどうかが、遡及の生命線になる。

つまり、遡及を考えるならまず認定日ごろのカルテの存否確認から始める。初診日の調べ方で書いた手がかりの洗い出しと、作業はそのまま重なる。

両方いっぺんに出せる — 実務の定石

意外と知られていないが、認定日請求と事後重症請求は択一ではない。認定日請求をしつつ、「認定日時点では不該当」とされた場合に備えて事後重症請求も予備的に行う出し方が実務の定石だ(認定日用と現在用、診断書は2枚必要になる)。

遡及が認められれば数年分がさかのぼって支給され、認められなくても請求月の翌月からの受給は確保される。片方に賭ける必要はない。

このとき審査側は、認定日時点の診断書・現在の診断書・申立書の3つを突き合わせる。実務者の発信が最重要視する「書類の整合性」がここでも効く。申立書の該当期間(認定日の前後)に、当時の生活実態が頻度と具体例で書かれているか。「当時のことはよく覚えていない」で薄くなりがちな期間こそ、家族の記憶や当時のメモを掘り起こして書き込む。

受給後の「もう一段」— 額改定請求という道

認定日・事後重症で受給が始まった後、症状が悪化したときのための制度にも触れておく。額改定請求——現在の等級から上位等級への変更を求める請求だ。

額改定請求では現在の障害状態があらためて審査され、上位等級に該当すれば年金額が改定される。原則として受給権の発生または前回の診査から1年を経過してから請求するが、障害が明らかに重くなった場合には例外がある。永久認定の人も請求できるが、現在の状態を診査する手続きである以上、請求前に年金事務所や専門家へ個別に確認したい。

額改定請求の時期や例外は、日本年金機構の「障害の程度が変わったとき」で確認できる。永久認定を受けている場合を含め、個別の判断は年金事務所や専門家に相談したい。

【実例】アキさんの遡及判断 — 電話2本と診断書2枚

流れを実例で通す。アキさん(32歳・うつ病)は、初診日が在職中の令和5年10月と確定した(初診日の記事の通り、当初思い込んでいた退職後の心療内科ではなく、在職中の内科だった)。すると障害認定日は令和7年4月。すでに1年以上前だ。

電話1本目(当時の通院先): 認定日の頃に通っていた△△クリニックへ。「令和7年4月頃のカルテは残っていますか。障害認定日の診断書をお願いしたいのですが」——残っていた。当時は母の付き添いでかろうじて通院していた時期で、カルテには起床困難・入浴週1回の記載もあるという。

電話2本目(年金事務所): 「認定日請求と事後重症請求を併せて行いたい」と伝え、必要書類を確認。診断書は認定日以後3か月以内の現症のもの請求日以前3か月以内の現症のものの2枚。

申立書の調整: 認定日(令和7年4月)をまたぐ期間の記述を厚くする。ここで効いたのが、母がつけていた「様子メモ」だった。「4月: ほぼ毎日昼まで布団。食事を部屋に運ぶ。7日入浴せず」——当時の実態が、日付つきで残っていた。

結果としてアキさんは、認定日からの遡及約1年分と、以後の受給を確保した。かかった追加コストは、電話2本と診断書1枚分の費用。遡及の検討をしないまま事後重症で出していたら、この1年分は存在しなかった。

認定日の段の書き方 — 申立書で遡及を支える

遡及を狙う申立書では、「障害認定日の前後」の段が審査の主戦場になる。書き方の型は通常の期間(4要素の解説)と同じだが、意識することが2つ増える。

① 認定日を挟む数か月を、独立した密度で書く。 「この頃も同様の状態が続いた」で流さない。文例:

(令和7年3月〜6月頃) この時期が最も重く、週の5日以上は昼まで起き上がれなかった。食事は母が部屋に運び、1日1回食べられれば良いほうだった。入浴は月に2〜3回で、いずれも母に強く促されてのこと。4月の通院は2回とも母の付き添いで、待合室に居られず車内で順番を待った。金銭管理は前年秋から母が行っていた。

② 認定日ごろの客観資料と噛み合わせる。 診断書(認定日現症)に「起床困難」「入浴週1回未満」とあるなら、申立書も同じ場面を本人側から描く。母のメモ、当時のLINE、通院の領収書の日付——書類の外にある記録が、二枚の診断書と申立書を一本の線でつなぐ。実務の現場で「家族や支援者の日常生活メモが書類の整合性の裏付けになる」と言われるのは、遡及の場面で最も切実に効く。

なお、20歳前傷病の人の認定日は「20歳の誕生日前日」(認定日がそれ以前に来る場合)で、遡及の主戦場は「20歳前後の段」になる。大学の成績表・休学記録・親の記憶が資料になる点も含め、構造は同じだ。

遡及の「実額」— 数字で見ると判断が変わる

「さかのぼれる可能性がある」と言われてもピンと来ない人のために、令和8年度の障害基礎年金2級(年額847,300円、子の加算を除く)で概算してみよう。

実際の支給額は対象年度ごとの年金額、対象月数、子の加算、厚生年金の報酬比例部分などで変わる。事後重症で「請求月の翌月から」を確保するのと、認定日請求で過去の分も受け取るのとでは、生活再建の初速が大きく変わり得る。

だからこそ、面倒でも最初にカルテの存否確認をやる価値がある。電話1本の台本はこうだ。

「障害年金の請求を検討しています。○年○月頃に通院していた者ですが、当時のカルテは残っていますか。残っていれば、障害認定日ごろの診断書の作成をお願いしたいのですが」

残っていれば遡及の検討に進む。破棄されていれば、転院時の紹介状の写しの有無を尋ねる。この10分で、数百万円の可能性の有無がおおむね判明する。

一発勝負の意識で — 2度目が険しくなる制度の内側

再請求を軽く考えないほうがよい。次の公開投稿は、本人請求で不支給となった後、専門家が関与して再請求しても不支給だった一事例を紹介している。個別事例を一般化はできないが、前回の請求書類と不支給理由を確認し、同じ資料を出し直すだけにしないことの重要性は伝わる。

年金機構には請求ごとの審査記録が残るため、再請求では以前の判断理由との関係も整理する必要がある。しかも過去の状態の証明は、カルテの廃棄や記憶の薄れによって年々難しくなる。遡及を狙うなら、初回から証拠をできる限り揃える。 申立書の認定日前後の段(書き方はこちら)に、家族の記憶や当時の資料を反映するのはそのためだ。

受給が始まってからのカレンダー — 更新は選べない

認定日請求・事後重症請求のどちらで通っても、その先には更新(障害状態確認届)がある。更新時期は自分では選べない。令和6年度の日本年金機構の業務統計では、新規裁定の更新期間は1年・2年・3年・4年・5年・永久固定に分かれている。次の投稿は2年更新となった一事例であり、一般的な更新期間を示すものではない。

つまり、遡及の勝負が終わっても、「過去と現在を記録で証明する」という仕事は終わらない。最短1年後には、直近の状態を示す診断書がまた必要になる。受給決定の通知が来た日にやるべきことは、祝杯と、年金証書に書かれた次回診断書提出年月をカレンダーに登録することの2つだ。

認定日請求の段取り — 8週間プラン

「やることが多くて動けない」を防ぐため、認定日請求(+予備的事後重症)の段取りを週単位に割っておく。体調に波がある前提で、余裕込みの設計だ。

1〜2週目(調べる): 初診日の確定と、認定日ごろのカルテ存否確認(前述の電話台本)。年金事務所に事前相談の予約(委任状で家族でも可)。ねんきんネットで納付記録を確認。 3〜4週目(依頼する): 受診状況等証明書(初診の病院が別の場合)と、診断書2枚(認定日現症・現在現症)を依頼。依頼時に生活実態のメモと、認定日ごろの記録(家族のメモ・当時の資料)を医師に渡す。診断書は数週間かかるのが普通なので、待ち時間を次へ充てる。 5〜6週目(書く): 申立書を4要素で作成。認定日前後の段と現在の段を厚く。年金請求書・その他の添付書類(住民票等)を揃える。 7〜8週目(確認して出す): 受け取った診断書を7つのポイントで確認。申立書との整合を突き合わせ、全書類のコピーを取ってから提出。事後重症分は月末を意識して同月内に。

8週間はあくまで目安で、倍かかっても構わない。大事なのは順番だ。「調べる→依頼する→書く→確認して出す」を逆走しないこと。申立書を先に書いて、後から初診日が動くと、全部書き直しになる。

家族ができること — 遡及は一人でやる作業ではない

認定日請求は、本人の体調が最も悪かった時期を掘り返す作業でもある。家族が肩代わりできる部分を明確にしておくと、止まらずに進む。

本人がやらなければならないのは、突き詰めれば「自分の生活の事実を思い出して伝える」ことだけだ。それ以外は、全部渡していい。

事後重症は「月末」が締切 — 1か月の遅れは1か月分の消滅

事後重症請求には、認定日請求とは別種の時間圧力がある。受給は請求月の翌月分から——つまり、月をまたぐごとに1か月分(2級基礎で約6.6万円+加算)が、誰のものにもならず消える。

だから事後重症で行くと決めたら、書類が揃い次第、その月のうちに出す。「キリよく来月から」に合理性は一切ない。逆に、診断書の現症日から3か月の有効期限が切れそうな場合も、月末を意識して動く。65歳の誕生日の前々日という最終期限もある(事後重症請求は65歳に達する日の前日まで)。長く未申請だった人ほど、この「月単位で消えていく」感覚を持ってほしい。

なお、1年6か月を待たずに認定日が来る特例も知っておくと早回しできる。人工透析は開始から3か月、人工関節・ペースメーカーは装着日、在宅酸素療法は開始日——など、症状固定や治療開始の日をもって認定日とする傷病が定められている。精神疾患は原則通り1年6か月だが、併存する身体疾患があるなら特例側で早く土俵に上がれる可能性がある。

記録は「複利」で効く — 申請・遡及・更新・額改定の全部に

この記事で見てきた4つの場面を並べると、あることに気づく。

つまり障害年金は、入口から出口まで一貫して「記録を持っている人」が有利に設計されている制度だ。アキさんの遡及を救ったのは母の日付つきメモだったし、更新のたびに効くのも日々の記録だ。逆に、記録がない人は毎回、薄れる記憶と消えるカルテを相手に戦うことになる。

記録は書いた瞬間には何の価値もないように見える。だが1年後、3年後、5年後に、そのときの自分が絶対に復元できない解像度で効いてくる。複利で効く資産——障害年金の世界での記録は、正確にそういう性質のものだ。

「今の記録」が、いつか誰かの遡及を救う

この記事の内容を一言でまとめると、過去の状態は、記録がなければ証明できない、ということだ。遡及で苦労する人は、当時の記録がない人だ。

だから、今まさに通院している人へ。今日の1〜2行のメモが、数年後のあなた(あるいは更新・額改定・再請求の場面)にとっての「当時のカルテ」の代わりになる。このアプリは、日々のメモを溜めて、診察で医師に見せる書類と申立書の材料に整える道具だ。記録は端末の中だけ、ログイン不要、基本機能は無料。

よくある質問(FAQ)

Q. 遡及は何年分までさかのぼれますか? A. 認定日請求が認められた場合、認定日の翌月分から支給されますが、年金の時効により実際に受け取れるのは請求時点から最大5年分です。5年より前の分は時効で消滅します。

Q. 認定日(初診日から1年6か月)より前に請求できる場合はありますか? A. 一部の傷病では症状固定により1年6か月を待たずに認定日が来る特例があります(人工透析開始から3か月、人工関節挿入日など)。精神疾患では原則1年6か月です。

Q. 認定日の頃の病院が閉院・カルテ破棄でした。遡及は無理ですか? A. 難しくなりますが、転院先の紹介状や当時の記録(お薬手帳・領収書等)で状態を補強できる場合があります。遡及が立たない場合も、事後重症での請求は今からできます。

Q. 事後重症で受給が始まった後に、やっぱり遡及を請求できますか? A. 当初の請求方法や決定内容によって扱いが変わり、後からの認定日請求が難しくなる場合があります。最初の請求前に認定日請求の可能性を確認し、すでに決定を受けている場合は年金事務所や専門家へ個別に相談してください。

Q. 診断書2枚分の費用が重いです。 A. 認定日用と現在用で2通必要になるため、実費負担は増えます。カルテの存否を先に確認し、遡及の見込みがあるかを見極めてから依頼するのが無駄を減らすコツです。

Q. 遡及分は一括で振り込まれますか? 税金はかかりますか? A. 決定後、対象期間分が一括で振り込まれます。障害年金は非課税所得のため所得税はかかりません。ただし同一傷病で傷病手当金を受けていた期間と重なる場合は重複分の返還が必要になり、扶養や各種手当の判定に影響する場合があるため、まとまった額の使途は返還・調整を確認してから決めてください。

Q. 一度事後重症で不支給になっています。今から認定日請求できますか? A. まず前回の決定理由と提出書類を確認してください。処分自体を争う審査請求と、現在の状態であらためて請求する再請求は目的が異なります。審査請求の期限もあるため、年金事務所や専門家へ早めに相談してください。

Q. 受給後に悪化しました。すぐ額改定請求できますか? A. 原則、受給権取得または前回の診査から1年経過後に請求できます(障害が明らかに重くなった場合の例外あり)。現在の障害状態を審査する手続きなので、永久認定の人も含め、請求前に個別確認をおすすめします。

まとめ

※本記事は、X上で公開されている当事者・実務者の発信を参考にした情報と、一般的な制度情報に基づくものです。遡及や受給を保証するものではありません。個別の判断は年金事務所・社会保険労務士でご確認ください。

参考リンク

制度の正式な情報・最新の様式は、日本年金機構のホームページおよび 年金事務所でご確認ください。